福岡市博多区。住宅街のマンション通路を、一人の少年がとてつもないスピードで駆け抜けていた。それを偶然目撃したのが、地元の少年サッカーチーム「三筑キッカーズ」の総監督だった。

「あの子をチームに入れてくれないか」

その一言が、冨安健洋(27)のサッカー人生を動かした最初の歯車だった。

プロフィール

名前冨安 健洋(とみやす たけひろ)
生年月日1998年11月5日(27歳)
出身地福岡県福岡市博多区
身長/体重188cm / 78kg
ポジションDF(CB/SB/MF)
現所属アヤックス(オランダ)
代表歴日本代表 A代表42試合1得点(2018年〜)

バルセロナスクールで磨かれた素質

11歳のとき、冨安は福岡に開校したばかりのバルセロナスクールに入会する。そこでのコーチは彼をFCバルセロナ本体に推薦するほど才能を評価したが、小学生を単身スペインに送ることは叶わなかった。

それでもその経験は確かに実を結ぶ。中学生でアビスパ福岡の下部組織に入り、ジュニアユース3学年すべてでキャプテンを務めた。中学3年のとき、すでにトップチームの練習に飛び級参加するほどの存在感を放っていた。

2015年、高校2年でアビスパ福岡にプロ登録。同年10月の天皇杯で公式戦デビューを果たし、翌2016年にはJ1の舞台に立った。高校3年でのプロ契約——その事実だけで、この選手の規格外ぶりが伝わる。

ヨーロッパへの道:ベルギー、イタリアを経てアーセナルへ

2018年夏、ベルギー1部のシント・トロイデンに移籍。27試合に出場し、欧州の水に馴染んでいく。

そして2019年夏、セリエAのボローニャへ移籍。イタリアの地でその名声は急速に高まった。「ヨーロッパのワンダーキッド トップ20」では、当時新星として話題になっていたサンチョやエムバペらと並んで10位にランクイン。20歳そこそこの日本人DFが、世界の注目を集め始めていた。

2020年には左足のミドルシュートでセリエA初得点を記録。イタリアの名物記者はこう絶賛した——「冨安は黄金の選手。監督にとってなくてはならない男だ」。

アーセナル時代:栄光と試練

2021年夏、プレミアリーグの名門アーセナルへ移籍。チームは3連敗中という危機的状況だったが、冨安は右サイドバックの定位置を即座に確保し守備を立て直した。4シーズンで公式戦84試合に出場し、確固たる地位を築いた。

しかし度重なる怪我がキャリアに影を落とす。特に2023年以降は膝の負傷で長期離脱を繰り返し、2024-25シーズンは出場機会が大幅に減少。最終的に双方合意のもとアーセナルとの契約を解除した。

「プレミアに戻るチャンスもあると思っている」

退団後もそう語っていた冨安の言葉に、諦めの色はなかった。

アヤックスで「再出発」——そして代表復帰へ

5カ月に及ぶ無所属期間を経て、2025年12月、オランダの名門アヤックスと今季終了までの短期契約を結んだ。決断の後押しとなったのは、アーセナルの元チームメイトであるオランダ代表のユリエン・ティンバーのアドバイスと、日本代表の盟友・板倉滉がすでに所属していたことだった。

「アヤックスと話したとき、クラブが自分を信じてくれていると感じた」

2026年2月1日、エクセルシオール戦で後半35分から途中出場。484日ぶりの公式戦復帰だった。3月14日のスパルタ・ロッテルダム戦では加入後初先発を果たした。

POINT 1 484日ぶりの復帰——チームの守備に欠かせないピース

アーセナルで4シーズンにわたりチームの守備に多大な貢献を示した男が、北中米でも再びそのピースになろうとしている。

POINT 2 CB・SB・ボランチをこなすユーティリティ性が最大の武器

身長188cmながら俊足を誇り、センターバック・サイドバック・守備的ミッドフィールダーをハイレベルでこなせる。相手のポジションに応じて最適なポジションに入れる「万能型DF」は、多様な戦術を駆使する森保ジャパンにとって替えの利かない存在だ。

POINT 3 「この決断をしてよかったと思えるように」——不屈のメンタリティ

アーセナルを退団し、無所属期間を経てアヤックスへ。その決断を自ら正解にするべく、冨安は今もピッチで証明し続けている。W杯本番まで3カ月、コンディションを上げながら日本代表の守備の中心を担う覚悟は揺るぎない。

選手経歴

年度所属クラブ出場得点
2016-18アビスパ福岡(J1/J2)45試合1得点
2018-19シント・トロイデン(ベルギー)27試合1得点
2019-21ボローニャ(イタリア)61試合3得点
2021-25アーセナル(イングランド)84試合2得点
2025-26アヤックス(オランダ)復帰中-

福岡の路地を駆け抜けた少年は、世界中の試練をくぐり抜け、今また走り続けている。W杯本番まで、残り3カ月。冨安健洋の物語は、まだ終わっていない。